【訃報情報】
※登場人物※
・山本 和彦
・篠原 雪子
・川崎
・日野
=エキストラ=
・課長
・社員A
SE:オフィスの喧騒。電話のベル・タイピング音・コピー機の音など
山本:(独白・だんだんボリュームUP)暇だ・・・暇だ・・・暇だ・・・暇だ・・・暇だ・・・っ!
課長:山本君。手、空いてるか?ちょっと、手伝って欲しいものがあるんだが・・・。
山本:ああ、スミマセン課長。ちょっと、今日中に片付けたい案件があるんで。
課長:そうか。いや、じゃあ川崎君どうかな?
川崎:あ、イイっすよ?なんですか?
SE:椅子を立つ音
課長:ああ、今度の大型企業向けサポートプロジェクトの資料なんだがな、ちょっと構成 に悩んでいる部分があって・・・(フェードアウト)
SE:カツカツカツ(靴音)
篠原:こら山本!この給料泥棒!
山本:うわっ篠原!なんだよ突然、人聞きの悪い。
篠原:今、なんで課長、手伝ってあげなかったの?どうせ暇なんでしょ?
山本:暇じゃねーよ。オレだって一応、仕事してるさ。
篠原:うそ。ほら、また画面の端っこでこっそりネット見てる。
山本:ちょ、おま、止めろよ。シーッ。
篠原:焦るくらいならやるなよバカ。ホント、アンタってなんでそんなにやる気無いの?
山本:くそ、ほっとけよな。最低限、こなすことはこなしてるんだ。いいだろ?
篠原:ところで、アンタあれ見た?
山本:あれってどれ?
篠原:部長の表彰式レポートよ。環境なんとかかんとか賞、受賞したヤツ。
山本:ああ、なんかメール来てたな。あれ見なきゃいけないんだっけ?
篠原:「社員全員、確認するように。」部長直々のお達しよ。朝礼聞いてなかったの?
山本:ゲーッめんどくせ。
篠原:給料泥棒にほざく権利はない!
山本:で、どこチェックすればいいの?今、パパッと見ちまうよ。
篠原:社員用のHP開いて。
山本:ん。
篠原:そこの、更新履歴の下の・・・
山本:これ?
篠原:じゃなくてその下。
山本:こっち?
篠原:あ、ごめん間違えた。そっちじゃなくて・・・
山本:え、なんだこれ?「訃報情報」?
篠原:だから間違えたって。なに?これ初めて見たの?
山本:ああ。なにこれ?
篠原:名前の通りよ。社員のご家族とかが亡くなった時、葬儀の日程とかをここで知らせるのね。
山本:ふーん。なんでわざわざ?
篠原:だって、こんだけ人数多いとさ、付き合いがある人でもローカルで情報流れてくるとは限らないじゃない?まぁ、うちらの年齢じゃ、まだそんなに身近な問題でも無いけどね。
山本:なるほどなあ。「営業部 第3営業 課長 鈴木昭典 実父 9/10死去 告別式予定9/13」なんかこういうの見ると変な気分になるなあ。オレがこうやって働いてる間にも結構、人って死んでるんだな。
篠原:働いてる間にもって、働いてないでしょアンタの場合。ほら、ページ戻って、部長の表彰式のページは・・・(フェードアウト)
BGM:A(冷たい乾いた音楽)
山本:(独白)それから、その「訃報情報」を見るのが、何となくオレの日課になった。惰性で日々を過ごすオレにとって、多少なりとも関わりのある人間の死は、退屈な日常のささやかな刺激となった。
大体の訃報の主は「実父」や「実母」といった、社員の親族だ。これはオレにとってはあまり面白い物ではなかった。このでかい会社で課長・部長クラスにもなれば、当人達の年齢も50を過ぎる程なのだから、その親が死んだところで、それは単なる1老人の死に過ぎない。オレが密かに「レア物」と呼んで楽しんでいたのは、訃報の主が「本人」とあるものだった。
BGM:A(ボリュームダウン)
SE:オフィスの喧騒。フェードイン。
山本:お、今日はレア物があるじゃん。ふふ。
川崎:先輩?
山本:ん?ああ、なんだ?
川崎:なにか、いいことでもあったんですか?
山本:なんだよ、突然。
川崎:いや、妙ににやけてるから。
山本:別に・・・ただの思い出し笑いだよ。深い意味はない。
川崎:あ、先輩、思い出し笑いする人ってむっつりスケベなんすよ?ハハ。
山本:ッチ。くだらない事言ってないで、仕事しろ。
川崎:・・・はーい。ちぇっ。
BGM・バックSE:フェードアウト
SE:シュポッ(ライターを点ける音)チリチリチリ(煙草に火が点く)
山本:ふー。あーぁ。(ゴキゴキと首を鳴らす)客はキーキーわめくし、隣の新人のガキはウゼーし。つまんねーなぁ。
SE:キィ。バダン。(ドアの開閉)
日野:あ、山本さん。お疲れ様です。
山本:お、日野ちゃん久しぶり。おつかれーっす。
日野:あー、まだそんな重いの吸ってるんですか?もう、体に悪いですよ?
山本:え、いやいや、まぁ日野ちゃんだって禁煙できてない口でしょ?言いっこなしってことで。
日野:私のは1ミリです!まぁ、だからいいってワケじゃないですけど・・・。あ、今もユーザサポートにいるんですか?
山本:あぁ、うんまあね。まったり、客なだめすかしてやってるよ。日野ちゃんもまだシステム処理?
日野:はい。そりゃあ、専門職ですから。いやな言い方すると、つぶしが利かないって言うか・・・。
山本:ふーん。
日野:山本さん、いつからここにいるんですか?もー、いいんですか?仕事戻らなくて・・・
山本:あぁ、ボチボチ戻るよ。大丈夫だって。正直、あんま忙しくないんだよ今。
日野:そうなんですか・・・。でも、雪ちゃんの所とか結構バタバタしてるみたいですよ?お手空きなら手伝ってあげて下さい。
山本:篠原の?ふーん。そうなんだ。うーん、まぁ考えとくよ。うん。
日野:ええ、お願いします。あ、そろそろ私、戻りますね?
山本:はいはい。おつかれーっす。
日野:お疲れ様です。
SE:キィ。バダン。(ドアの開閉)
しばし間
SE:シュポッ(ライターを点ける音)チリチリチリ(煙草に火が点く)
山本:ふー・・・
バックSE:オフィスの喧騒。フェードイン。
山本:さて、今日は・・・っと。んー実母、義父・・・クソ、普通だな。ん?あ・・SE部んとこの笹山、父親死んじまったんだ・・・へぇ。
SE:カツカツカツ(靴音)
篠原:山本!ねぇ、聞いた?
山本:あ、篠原。え?なにを?
篠原:SEに同期で笹山っていたでしょ?
山本:あぁ。親父さん死んじまったって?
篠原:なんだ、アンタも聞いてたの。
山本:いや、というか今見た。
篠原:え?・・・あぁ、なんだ訃報情報。アンタそんなもんチェックしてたの?アタシのところには、電話があったよ?告別式来て欲しいって。
山本:へぇ。
篠原:アンタも行く?
山本:いいよ。めんどくさい。
篠原:え?
山本:めんどくさいからパス、って言ったの。
篠原:・・・なんでそういうこと言えんの・・・。
山本:なに?
篠原:別に。だから電話来なかったんだなと思って。
山本:え、なに?
篠原:香典ぐらい送りなさいよ?社会人として。
山本:あぁ。考えとくよ。
篠原:考えとくよって・・・送らないの?
山本:だから、考えとくよって。
篠原:なにそれ?
山本:なんだよ。
篠原:サイッテー・・・。
SE:カツカツカツ(靴音)
山本:・・・なんだアイツ?
SE:キィッ(椅子を回す)
川崎:先輩、この間言ってた資料なんですけど・・・
山本:あ?あぁ、そこおいといて。
川崎:え、でもちょっとわからない所が・・・
山本:いいから、そこおいといて。なんかあったら言うから。
川崎:・・・はい。
SE:パサッ(資料を置く)キィッ(椅子を回す)
山本:(独白)篠原のヤツ、なんだったんだ?だいたいなんか元々ムカつくんだよな、アイツ。いつだって自分が正しいみたいな顔しやがって。あーイライラすんな・・・。今日はレア物もねーし・・・って、お?あるじゃんか。なんだよ、さっきは・・・え?
SE:戦慄音
山本:・・・オレ、じゃねーか。
川崎:え?なんですか?
山本:・・・。
川崎:先輩?どうかしたんですか?
山本:・・・。
川崎:先輩?
山本:なんだよっ!!
川崎:・・・なんでもないです。
山本:(独白)どういうことだ?同姓同名か?いや「販売推進室 ユーザサポート 山本和彦」オレしかいないじゃないか。「9/21」明日だ。・・・明日?おかしいじゃないか。なんで今日の更新分に明日の分が・・・いや、そんなことよりなんでオレが。オレが・・・オレが・・・死んだ?明日?
山本:はは。なにを馬鹿な。
SE:キーンコーンカーンコーン(定時のチャイム)
ガタッ(勢いよく椅子から立ち上がる)
ガサガサ(荷物をまとめる)
川崎:え、先輩。もう帰るんですか?
山本:あぁ、ちょっと気分が悪くてな。
川崎:えーでもS社からの問い合わせ、返してないっすよ?
山本:いんだよ。明日やれることは今日やらねぇんだ。じゃあな・・・。
SE:ザッザッザッザ(靴音)
川崎:・・・おつかれさーっす。
SE:屋外、平日アフターファイブの喧騒
ザッザッザッザ(靴音)
山本:(独白)なんだ?なんだ?なんなんだ?オレが死んだ?明日にか?明日、死ぬってことか?予告か?誰のいたずらだ・・・くそ・・・。
BGM バーの室内楽
山本:クソッ!!
SE:ドンッ(机にグラスを置く)
篠原:山本?
山本:あぁっ?
篠原:どうしたのこんな所で。
山本:おう。篠原。お前こそどうした。
篠原:アタシは、仕事帰りにひとりで一杯やりにきただけだよ・・・。あんたこそ今日、定時で帰ったんじゃなかったっけ?
山本:だからなんだよ!
篠原:どうしたのこんな時間まで。
山本:うるせーな。関係ねーだろ?
篠原:・・・なに荒れてんの?
山本:荒れてねーよ!
篠原:荒れてるよ。
山本:ッチ。
SE:ゴクゴクゴク・・・ドン(飲んでグラスを置く)
篠原:ねぇ、山本?アンタ、変だよ?
山本:あぁ?
篠原:大変な部分そぎ落として、退屈な部分かき集めて―結果的に、退屈に苦しんでる。みたい・・・。
山本:はぁ?
篠原:イヤなことは極力やらなけりゃ楽で、楽って楽しいって思ってない?それって、自分で自分の首絞めてるよ。アンタがめんどくさいと思ってることの方が、退屈もイライラも解消できると思う。
山本:意味わかんね。
篠原:だから・・・
山本:つーかさ、こんなとこまで来て説教たれんのやめてくんない?毎日毎日、同期の癖にお局きどりでさ。ウゼーんだよ!
篠原:・・・。そう。
山本:あー・・・クソ、もーマジどうでもいーわ。
篠原:・・・どうでもいいって・・・
山本:(かぶって)篠原。オレ帰るわ。
SE:ザッザッザッザ(靴音)
しばし間
カラン・・・(グラスの氷がゆれる)
SE:深夜の街の喧騒。車の音。
山本:タクシー!
SE:ブロロロロ・・・(走り去る車)
山本:クソ。どこ見てんだよ。ボケが。・・・なんだよ。なんだっつーんだよ。意味わかんね。あームカつく。みんな死なねーから生きてるだけじゃんか。同じだろーがよ、なにを成そうが。死ぬ前に生きてるだけだろーが。 そうだよ、死んだってあんま変わんねーじゃねぇか。オレだってよ・・・ハハハ。
SE:ブォー(車)
山本:タクシー。おい、タク・・・
SE:キキイィィィィ!!プァー(急ブレーキ・クラクション)
無音
SE:オフィスの喧騒。
日野:だから、雪ちゃんの所為じゃないって・・・。
篠原:でも、あんなに酔っぱらってたの・・・一人で帰して・・・せめてタクシー拾うとこまで、ついててあげれば・・・アタシ・・・
日野:そんなの後から言えることだよ。そんなに自分責めたって仕方ないじゃん。山本さんだって、雪ちゃんの所為だなんて、思ってないって。絶対。ね?
篠原:・・・うん。
日野:ほら、仕事戻ろ?忙しくして、一時でも忘れた方が良いよ。ね?
篠原:うん。・・・ありがとう。
SE:カツカツカツカツ(靴音)
日野:ふー・・・雪ちゃんも、マジメちゃんだからなぁ・・・。
SE:キィ(椅子を回す)
社員A:日野さん、例の件。
日野:え?なにか、わかったんですか?
社員A:いや。それが・・・さっぱりなんだ。
日野:・・・やっぱり、だめですか。
社員A:あぁ、ムリだね。勿論、アクセス権限はウチにしかない。その、ウチの編集画面での更新は無いんだ。なのに、Web上はやっぱり昨日更新されていて・・・。どう考えてもおかしいんだがな・・・今日、死んだ人の訃報が昨日更新されているなんて・・・
SE :オフィスの喧騒(だんだんボリュームUP)
―終―